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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考

『CO2本位制』の時代へ -地球温暖化を巡る世界の金融とビジネスの新しい動き- / 末吉 竹二郎

EUは2007年3月、二酸化炭素を2020年までに1990年比20%削減することを公約した。その目標を達成するために、EU全27カ国に個別の目標が設定されている。例えば、再生可能エネルギーの利用拡大においては、2005年度比でスウェーデンに49%、フランスに23%、ドイツに18%、英国に15%を要求している。

EUでは二酸化炭素削減競争が始まっている。ドイツでは2020年40%削減、イギリスは2050年までに80%削減すると公約した。スウェーデンは、2020年に化石燃料依存をゼロにし、これを国家戦略にすると宣言し、ノルウェーは、2050年までに、国全体をカーボン中立化する(海外と排出権取引をすることで、結果的に二酸化炭素を出さない国にする)としている。

2008年1月23日ダボス会議の初日、バローゾ委員長は、EUが各国あるいは各対象企業に配る排出枠を2013〜20年に『有償化』すると公表した。現在EUは、『欧州排出権取引制度』のもと、約5,000企業、その傘下にある11,000強の事業所に排出の上限枠(キャップ)を割り当てている。「A会社のB工場は二酸化炭素排出を年間10万トン以内に抑えなければならない」という上限を課したのだ。上限を超えると、1トンあたり100ユーロ(約16,000円)の罰金を払わなくてはならない。さらにEUでは、2013年以降『入札制』を通じて、排出枠獲得を競わせる方針である。様々な拘束を設けて二酸化炭素の排出規制に乗り出しているのだ。

EUは、国連の投票権を27票持ち、人口5億人、全体のGDPはアメリカを抜いて世界最大である。国際的に大きな力を持つこのEUが、世界に『規制の輸出』を始めていると言えないだろうか? 厳しい規制を自らに課すと同時に、競争相手であるアメリカや日本その他の国々にも同じ姿勢を求めているのだ。EU域内で離着陸する航空機会社の年間排出枠の設定や、自動車の排出ガスに含まれる二酸化炭素量の規制などは、その一例である。

一方、アメリカも大きく変わろうとしている。米国大統領候補のヒラリー・クリントン氏は、新規に建造する連邦政府ビルをゼロエミッションにすることを選挙公約の中で宣言した。バラク・オバマ氏も、2050年80%削減を目指すと発表している。さらに、2050年63%削減(2005年比)を目指すリバーマン・ウオナー法案が、連邦上院・委員会で承認されているのである。

こうしたアメリカの変化には、世論が大きく影響していると考える。温暖化を第一の環境問題ととらえる市民が増え、約30州が二酸化炭素排出量規制の方向へ動いている。人口1億人を擁する825市が気候変動連盟への参加を始めた。これは、アメリカ全人口の3分の1に相当する。

アメリカのビジネスも大きく舵を切り始めた。その現れのひとつが、USCAPという企業の連合体の声明だ。2007年1月、GEやデュポンなど大手30企業が連邦政府に対し、全米で統一した二酸化炭素排出量規制を取り入れた市場をつくるよう要求した。この背景には、規制こそイノベーションを生むのだ、そのイノベーションこそがアメリカの国際競争力を強めるのだ、という思想がある。この分野でも世界のリーダーシップをとるのだという、アメリカの強い意気込みが感じられる。

アメリカやEUは、社会の制度のなかで、温暖化問題の解決に向けて動き始めている。一方、日本は今どのような状況にあるのだろうか?

次に、金融の話をしよう。我々が銀行に預けたお金は何に使われているのか? そのお金が、我々の社会にどのような影響を与えているのか? 近年、市民社会が銀行の投融資に強い関心を持ち始めている。

金融を語る上で外せないのが、年金基金である。日本の公的私的年金は約200兆円。世界主要国では25兆ドル(約3,000兆円)と巨額である。2003年11月、機関投資家を集めた「気候変動リスクに関する国際会議」において、アナン事務総長(当時)が、「地球の将来が投資家の判断に委ねられ、その決定が将来の人々の生活と仕事に大きな影響を与える」と指摘した。機関投資家の投資判断に、新しい視点を持つよう呼びかけたのだ。

『責任投資』という言葉は、投資判断に環境、社会的責任、ガバナンスを反映させ、包括的な投資判断を求めるものである。2006年4月には、アナン国連事務総長(当時)とUNEP金融イニシアチブ、国連グローバル・コンパクトが責任投資原則を共同で策定した。既に世界の340機関が署名をし、この機関の運用総資産額は13兆ドル(1,430兆円)を超えている。

実際に巨額の資金が動き始めている。世界の持続可能なエネルギー(再生可能エネルギー・新エネルギー)への投資総額は、2004年には275億ドルだったが、2007年には1,100億ドルに達している(new energy finance調べ)。2008年3月、機関投資家約500名(総資産額約20兆ドル)が参加した気候変動サミットでは、向こう2年間気候変動対策に100億ドルを投資すると、約50の機関投資家が行動計画を発表した。

アメリカの大手金融機関シティ・バンク、JPモルガン・チェース、モーガン・スタンリーは、石炭火力発電所への投融資基準を厳しくする『炭素原則』を宣言した。バンク・オブ・アメリカのCEOは、二酸化炭素は「債務」であるという認識で 貸出審査を行うと公言した。二酸化炭素が、融資される側にとっても融資する側にとっても、大きなリスクファクターになってきたのである。

私はこの新しい時代を、『CO2本位制』と名付けている。金本位制の時代には、国が持っている金保有高が貨幣の通算発行量を決めていた。その貨幣の総体が、結果的に経済活動や社会活動の大きさを規定してきた。今、CO2(二酸化炭素)がさまざまなものを規定するようになりつつあると言えないだろうか? 

空気はもう無限の資源ではない。しかも、「タダ」ではない。逆に言えば、空気はお金になる。我々が規制の中で二酸化炭素排出量をいかに有効に使うかが重要になってくる。企業であれ、組織であれ、個人であれ、自分が使える二酸化炭素量の中で、最も豊かだと感じる生活をいかに築くか、ということでもある。許された二酸化炭素排出量でベネフィットを最大にできる国、地域、企業、組織、人が栄えていくだろう。

『CO2本位制』は、新しい社会規範、価値基準の誕生を意味している。「二酸化炭素を排出することは悪いことだ、損をする、罰せられる、嫌われる」という点と、「二酸化炭素を削減することは良いことだ、得をする、褒められる、歓迎される」という点を併せ持つものである。ロンドンやストックホルムでは既に、ガソリン車の走行には税金がかかるが、エコカーにはかからない道路も設けられている。インセンティブを与えて二酸化炭素を減らす一方、規制を設け罰金を与えて二酸化炭素を減らすという両方の取り組みが始まっている。

ビジネスモデルも大きな変換が求められている。20世紀型のビジネスモデルが、「お客様が喜ぶモノを大量にすぐに供給すること」を中核としていたならば、21世紀型ビジネスモデルは、「地球環境が許す範囲で優れたものを少量にゆっくり作ること」と言えよう。

金融とビジネスは、「持続可能な金融」+「持続可能なビジネス」の組み合わせでしか生き残れないだろう。いくら企業が環境に配慮しても、取引先の銀行がその価値を認めないとしたら、企業はその銀行と取り引きを続けるだろうか? 逆も然りである。欧米の国々では既に、社会の厳しい目が、ビジネスや金融のあり方を大きく変えているのである。

日本も世界の流れの先を見据えて、目先の問題ではなく、ビジネスはどこに行こうとしているのか、金融機関は何を考えるべきかを考えていただきたい。今の時代は、将来の方向性を決める時代だ。この変化を求める時代において、過去や現在の実績を述べても世界に訴える力はない。

現在どこにいようとも、どこを向いて何を目指しているのか、ビジョンや方向感を持つことが重要である。我々が生きる経済や社会や環境の中で、一市民、一消費者、一投資家、一預金者として、何を考えていかなければならないのか? いろいろな立場で考えていただきたい。

最後に、私の好きな19世紀・米先住民の言葉を引用する。
「最後の木が死に、最後の川が毒され、最後の魚を採ったとき、ひとはお金は食べられないと気付くのだ」

(2008年4月15日)

末吉 竹二郎

 

Profile

末吉 竹二郎(すえよし・たけじろう)
国連環境計画 金融イニシアチブ特別顧問

1945年鹿児島県生まれ。1967年東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。1989年より米州本部に勤務。 ニューヨーク支店長、取締役、三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取を経て、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。2002年、国連環境計画 金融イニシアチブ(UNEP FI)特別顧問に就任。2008年、福田総理の「地球温暖化問題に関する懇談会」メンバー。各種審議会や講演、テレビなどで、環境問題やCSR、SRIなどの啓発に努める。主な著書に『カーボンリスク』(北星堂書店)、『有害連鎖』(幻冬舎)。

 
 
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