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日刊 温暖化新聞|あの人の温暖化論考

「プランB」という挑戦〜すでに私たちは「危険な気候変動」に直面している / レスター・R・ブラウン

NASAの第一線の気候科学者であるジェームス・ハンセンら研究者たちは、「地球温暖化は加速しており、ティッピング・ポイント(それを超えると一気に加速する閾値)に近づきつつあるかもしれない」と考えている。気候変動が不可逆的な勢いをつけてしまう、そのギリギリの線を超えるまえに、状況を好転させるために使える時間はあと10年ぐらいだと彼らは考えている。
私もそう思う。

「危険な気候変動」を避けるまでに、今後何十年間、もしくは2050年までに何をすべきかということを、私たちはよく耳にする。しかし、すでにその「危険な気候変動」に私たちは直面しているのだ。

中国の黄河と揚子江に水を供給している氷河が、このまま年に7%という勢いで溶けつづけてしまえば、その3分の2が2060年までには消えてしまう。氷河の科学者たちは、乾期にガンジー川に水の70%を提供している氷河は、数十年の間に影も形もなくなってしまう可能性があると報告している。

乾期の間、アジアの田や小麦畑に灌漑水を提供している大河に水を提供している氷河がなくなってしまうこと以上に、食糧安全保障を脅かすものがあるのだろうか?
世界の人口の半分が住むアジア地域で、乾期の水供給が大きく失われてしまうことは、単なる「飢え」どころではなく、「想像を絶する規模の飢餓」をもたらす可能性がある。

アジアの食糧安全保障は、耕作地である川のデルタや氾濫原が水に沈んでしまう可能性があるため、より大きな打撃を受けるだろう。世界銀行によると、「海水位が1メートル上がっただけでも、バングラデシュの水田の半分が水に沈んでしまう」。

1メートルの海水位上昇は、一夜のうちに起こるわけではないが、今日のスピードで氷の融解が続くとしたら、ある段階で海水位がそれほど上昇するという事態は、もはや防ぎきれないものになるかもしれない。
このような影響を及ぼす氷の融解は、「地球の気温がさらに上がれば起こるかもしれない」というものではなく、現在の気温ですでに起こりつつあるのだ。

2007年の夏の終わりにグリーンランドから入った報告によると、氷河が溶けて海へ流入している量が、氷河の研究者の予測をはるかに超え、加速しているという。 数十億トンもの重さの大きな氷が砕けて海へ流れ出し、そのたびに小さな地震が起こっているという。

氷が溶けた水は、氷河と氷河が載っている岩の間に、まるで潤滑油を差すような効果をもたらすため、氷の流出は加速し、1時間に2メートルの速度で海へ流れ出している。この流出の加速と地震を見ていると、氷床全体が割れて、粉々になって崩れる可能性すらありえないことではないと思われる。

世界は、すでに起こっていることだけではなく、フィードバック・メカニズムのいくつかがスタートするのではないかというリスクにも直面している。フィードバック・メカニズムにスイッチが入ってしまうと、温暖化のプロセスはさらに加速する。
かつて「2100年には、夏の間には、北極海には氷がなくなるかもしれない」と考えていた科学者たちは、いまではそれは2030年までに起こるだろうと考えている。2030年という推定すら過小評価だという可能性もある。

このことは、科学者たちにとってとりわけ懸念の的だ。なぜなら、氷が溶けることによって、反射率の高い海氷の代わりに、色の黒い海水面に変わっていくと、太陽光から吸収される熱が大きく増えてしまうからだ。これを「アルベド効果」と呼ぶ。
言うまでもないが、こうなると、グリーンランドの氷床の融解はさらに加速する可能性がある。

2番目に心配すべきフィードバック・ループは、永久凍土の溶解だ。永久凍土が溶けることで、その地下に埋まっている何十億トンもの炭素が放出され、メタンも大量に放出される。メタンは、二酸化炭素の25倍も温暖化効果を持つ、強烈な温室効果ガスなのだ。

こうして、気候変動は手がつけられなくなり、氷の融解や海水面の上昇のすう勢を止めることができなくなるかもしれない——このようなリスクに、人類は直面しているのだ。こうなってしまうと、文明の将来は危うくなる。

氷の融解、海水面の上昇、そして、それらが食糧安全保障と海沿いの低地の都市に与える影響が組み合わさると、政府の対応能力をはるかに超えてしまうかもしれない。
今日、悪化する環境のもたらす圧力の下で、深刻な事態に陥り始めているのは、ほとんどが弱体な国家である。しかし、いま述べたような変化が起これば、強い国家ですら対応できなくなるかもしれない。こういった極端なストレス下では、文明そのものが崩壊し始める可能性すらある。

私の提案する「プランB」は、全面的な努力をして、「2020年までに二酸化炭素の排出量を実質80%削減」しようというものだ。目指しているのは、大気中の二酸化炭素濃度が400ppmを超えないようにすることだ。そうすることで、今後の気温上昇を抑えたいのだ。

これは途方もなく野心的な考えである。たとえば、そのためには、2020年までにすべての石炭火力発電所を段階的に停止させる一方、大きく石油消費量を減らさなくてはならない。単純なことではない。

しかし私たちは、現在すでに使うことができる技術を用いて、この転換を果たすことができる。この炭素削減努力には、3つの要素がある。「森林消失を止める一方で、炭素を吸収するための植林をすること」「世界中でエネルギー効率を向上させること」「地球の再生可能なエネルギー源を活用すること」である。

「プランB」は、照明や建物の冷暖房、そして交通輸送に対して、使用可能な最もエネルギー効率のよい技術を用いることを呼びかける。太陽、風力、地熱のエネルギー源を積極的に活用することを求める。たとえば、全面的に「プラグイン・ハイブリッドカー」に転換し、その電力の大半を風力発電でまかなう、ということだ。

「プランB」では、世界のエネルギー経済を全面的に再構築することが必要だ。しかも、戦時中のような緊急性を持って行わなくてはならない。米国は、第二次世界大戦開始後のほんの数カ月間に、米国の産業経済を大きく変えた。それと同じことが必要なのだ。

第二次世界大戦では、「それができなかったら?」という利害は、とても大きなものだった。しかし今日、「それができなかったら?」、もっと大きな害を被ることになろう。いま問われるべきは、「私たちのグローバルな文明を救えるだけのすばやさで動員ができるかどうか?」なのである。

(2008年1月8日)

レスター・R・ブラウン

 

Profile

レスター・R・ブラウン氏
アースポリシー研究所 所長

1934年、アメリカのニュージャージー州に生まれる。1955年ラトガース大学で農業科学の学位を取得後、インドの農村に6ヶ月滞在する。1959年、農務省に入省し、国際農業開発局長を務める。1974年、地球環境問題に取り組むワールドウォッチ研究所を設立、1984年に年次刊行物『地球白書』を創刊。2001年5月、アースポリシー研究所を創設して所長となる。著書に『エコ・エコノミー』『フード・セキュリティー』『プランB』など。常に持続可能な社会へのビジョンと、私たちがとるべき行動を明確に示し続ける、環境問題の世界的権威。

 
 
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