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日刊 温暖化新聞|エダヒロはこう考える

20100109

ディープエコロジーと山川草木

通訳をしていた頃、環境問題の会議によく出てくるが、日本語に対応する言葉がなくて苦労した英語の一つが、“Stewardship”という英語でした。Stewardとは「執事」のこと。人間が神から委託を受けて、ほかの生物や地球のお世話をするという考え方です。日本には大きなお屋敷も執事もいない上、「神の次に人間が偉くて、ほかの生き物の上に位置している」という思想に当てはまる日本語はないのです。

逆に、日本語から英語にしにくい言葉もあります。たとえば、「生かされる」という言葉。英語で「生かされる」と書くときにはほとんどの場合、「by ○○」(「神によって」など)。日本語の「生かされている」とは、特定の「何か」にではなく、自分を取り巻くすべてのもの(時空を超える場合も)に生かされているのです。

さまざまなつながりのおかげで生かされている――つながりの中にある自分の命を謙虚に受けとめ、自分の命だけではなく、つながりを形成している無数のほかの命(人間も、人間でないものも含めて)への純粋な信頼と、尊重・尊敬の念が込められている言葉だと思うのです。

もう一つ英語にしにくい日本語が、「もったいない」です。「もったいない」とは、「もったい」が「ない」と書きます。もったいとは何だろうと調べてみると、モノの本体、本質、命というような意味があることに気がつきました。そのものの値打ちや命が生かされず、無駄になるのが、もったいない、惜しいと、私たちは思うのです。

そう思うと、モノだけではなく、私たち一人ひとりの中にも、その本質や命があることに気がつきます。自分は、この時代、この社会に何をするために生まれてきたのだろう--仏教では、このことを「本務」と呼ぶそうです。

日本仏教に「山川草木悉有佛性」という言葉があります。山や川、草や木にも、悉(ことごと)く仏となる性質があるという教えです。モノも人も、そして人間以外の生物も、無生物も含めて、それぞれの本務を最大限に満たすこと。それが、もったいある人生なのではないかと思うのです。

人間以外のものに命を見たり、人間と同等の重みを持って見る考え方は、これまでの西洋では「アニミズム」と呼ばれ、原始的なものだと見下されていました。

私の母は京都出身ですが、「お豆さん」「お麩さん」と、食べ物にも「さん」付けをしています。西洋的には“原始的”なのかもしれませんが、「あなたの命、いただきます」という意味での「いただきます」の言葉に込められた、人間以外の、しかし私たちを形づくってくれるさまざまな生物や無生物に対する畏怖の念が込められているのではないでしょうか。

欧米にも「すべての生命存在は、人間と同じように価値を持つ。だから人間が、そのような、それぞれの生命の固有の価値を侵害してはいけない」という「ディープ・エコロジー」という考え方があります。人間の利益を保護するための環境保護ではなく、本当の意味での環境保護だとして1972年に提唱されたそうですが、西洋にもようやく東洋的なものの見方をする人が出てきたのかなとうれしく思います。

直近の取り組みとして、2020年までの二酸化炭素排出量を減らすために、炭素に価格を付けたり、生物多様性を守るために、生物多様性が提供している生態系サービスを金銭換算し、価格付けをすることで守ろうとするなどの動きが、盛んになってきています。

温室効果ガスを減らすため、生物多様性を守るために必要な動きです。しかし、これは単なる「手段」にすぎません。今の経済主導型の社会の中では、経済の言葉で話さないと聞いてもらえないからです。今の土俵で闘うための方便にすぎないのです。

そうやって今の土俵で時間稼ぎをしながら、土俵そのものを変えていく必要がある。それが山川草木であれ、ディープ・エコロジーであれ、自分の命も、ほかの人の命も、ほかの生物の命も、生物以外のそれぞれの価値も、同じようにいとおしく思い、敬い、守りたいと思う--その進化が実現するまで人間文明が破綻しないよう、本当に大切なことを考え続けながら、現在の土俵の上での闘いを頑張る日々がもうしばらく続きそうです。

 
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